「株価が下がりそうだから一度売って、安くなったら買い直そう」
「ちょっと利益が出たから、一度現金に戻して利確(利益確定)しようかな」
前回の第7章では、市場から一時的に離れると「稲妻が輝く瞬間」を逃してパフォーマンスが半分以下になるという、投資のチャンス(機会損失)に関するお話をしました。
しかし、ガチホ(ガチで保有)せずに売ったり買ったりを繰り返すデメリットは、それだけではありません。実は、取引をバタバタと行うたびに、あなたの財布から「目に見えるコスト(手数料と税金)」が容赦なくむしり取られていくのです。
今回は、インデックス投資で余計な売買を繰り返すと、具体的にどれほどのコストの損が発生するのか、ガチホした場合と比較しながらリアルな数字で解説します。これを読めば、「何もしないこと」がいかに最強の節約であり、最大の投資戦略であるかが分かります!

頻繁な売買で発生する「3つの見えないコスト」
インデックス投資(特にオルカンなど)を途中で売却し、再度購入する一連の行動には、主に以下の3つのコストがつきまといます。
コスト1:売却するたびに利益の約20%が消える「課税」の罠
これが最も致命的で大きなペナルティです。
もしあなたがNISA口座ではなく、通常の口座(課税口座)で投資をしていた場合、売却して利益が確定した瞬間に一律20.315%の税金がかかります。
「でも、自分はNISA口座を使っているから大丈夫でしょ?」と思った方も要注意です。第3章で学んだ通り、新NISAには一生涯で使える非課税の投資枠に「1,800万円」という上限があります。
NISA口座内の商品を売却すると、使った投資枠は翌年にならないと復活しません。そのため、頻繁に売買を繰り返していると、あっという間に年間や生涯の投資枠を使い切ってしまい、結局は税金がかかる通常の口座を使わざるを得なくなるという、本末転倒な事態に陥ります。
コスト2:実質的な往復の取引コスト(隠れコスト)
現在の優秀なインデックスファンド(eMAXIS Slim 全世界株式など)は、購入時や売却時の直接的な手数料(買付手数料・信託財産留保額)は「無料(0円)」に設定されています。
しかし、投資信託を解約(売却)して再び買い直すまでの間には、ファンドの内部で発生する監査費用や売買手数料といった「隠れコスト」のほか、売却してから現金化され、再度注文が成立するまでに「数日間のタイムラグ(時間差)」が発生します。このタイムラグの間に株価が大きく上がってしまうと、「自分が売ったときよりも高い価格で買い直さざるを得ない」という、実質的なコスト(損失)を背負うことになるのです。
コスト3:最大のエンジンを止めてしまう「複利効果の断絶」
第4章で学んだ通り、長期投資の最大の武器は「増えた利益がさらに利益を生む」という複利のパワーです。
途中で売却して利益を確定させてしまうということは、これまで何年もかけて大きく育ててきた複利の雪だるまを、一度完全に破壊して、またイチから小さな玉を作り直す行為に他なりません。これによる「未来の利益の損失」は、計算すると恐ろしい金額になります。
そもそも「オルカンに勝つこと」がいかに難しいか
ここで、投資の現実について非常に重要な事実をお伝えします。世の中の多くの人は「もっと勉強して上手く立ち回れば、オルカン以上のリターンを得られるはずだ」と考え、売買を繰り返したり、別の尖った商品を血眼になって探したりします。
しかし、「オルカン(市場の平均点)に勝ち続けること」は、驚くほど、絶望的なまでに難しいのです。
世界中の超一流大学を卒業し、24時間365日市場のデータを分析しているプロのファンドマネージャーたち(アクティブファンド)の成績を追った世界的な調査(SPIVAスコア)では、以下のような衝撃的な結果が毎年報告されています。
- 15〜20年以上の長期において、プロが運用するファンドの約8割〜9割が、オルカンのようなインデックスに惨敗している。
最新の金融工学を駆使し、超高速コンピューターを使って取引している投資のプロ集団ですら、長期的にはただの「地球丸ごとパック(平均点)」に勝てないのです。
なぜこれほどまでにオルカンが強いのか。それは、オルカンが「その時々で世界最強の企業」を100%自動かつ最安コストで引き連れているからです。人間が「次はあの株が上がる」「今は一度現金を売るべきだ」と感情や欲を入れて動けば動くほど、前述した税金や取引コスト、タイミングのミスが積み重なり、オルカンの綺麗な右肩上がりの直線からどんどん脱落していきます。
プロの天才たちが束になっても勝てない最強の存在。それがオルカンです。最初からそのトップチームにタダ同然のコストで乗っかれるのですから、私たちがわざわざ自分で売買してオルカンを超えようとすること自体が、極めて無謀な挑戦(無理ゲー)であることが分かります。
【徹底比較】「ガチホ」vs「売買を繰り返す人」30年後のコストの格差
では、具体的にどれくらいの差がつくのか、シミュレーションしてみましょう。
条件は、これまで同様「元本1,000万円・年利7%」で30年間運用した場合です。
- Aさん(最強のガチホ): 30年間、一度も売らずにじっとほったらかした。
- Bさん(売買を繰り返す人): 5年に一度、株高や暴落の不安から「一度売って、すぐ買い直す」という取引を繰り返した(計5回売買、その都度利益に約20%課税)。
30年後の結果は、以下のようになります。
| 投資プレイヤー | 30年後の最終資産(手元に残るお金) | 国に支払った税金の合計 |
| Aさん(ガチホ) | 約7,612万円 | 0円(売っていないため) |
| Bさん(5年ごとに売買) | 約4,980万円 | 約1,000万円以上 |
驚愕の事実:その格差はなんと「約2,630万円」!
全く同じオルカンを買い、全く同じ相場(年利7%)の中にいたにもかかわらず、「途中でガチャガチャと売買を繰り返した」というだけで、将来手元に残るお金が2,600万円以上も減ってしまいました。
なぜこれほどの差がつくのでしょうか。Bさんは5年ごとに利益を確定させるたび、その時の資産から約20%の税金を国に前払いさせられています。そのため、次に買い直すときには「税金を引かれた後の、一回り小さくなったお金」でしか雪だるまを再スタートできません。
一方、一度も売っていないAさんは、本来国に払うべき税金を30年間のあいだずっと自分の手元に留め置き、その税金ぶんのお金にもさらに年利7%の複利を効かせ続けていたのです。これを投資の世界では「課税繰り延べ(かぜいくりのべ)効果」と呼び、ガチホする人だけに与えられる合法的な最強の裏ワザです。
売買のコストに関するFAQ(よくある質問)
「売らない方がいい」と分かっても、つい手が動きそうになる方へのアドバイスです。
Q1. オルカンより成績が良い別のインデックスファンドを見つけたら、乗り換えるために売ってもいいですか?
A. 基本的には今のオルカンをそのまま持っておくのが正解です。
例えば「最近はアメリカ株の勢いがすごいから、オルカンを全部売ってS&P500に乗り換えよう」とすると、その売却の時点で上記の「税金ペナルティ」と「複利のストップ」が発生します。もしどうしても別な商品を買いたくなった場合は、今持っているオルカンはそのまま市場にガチホしておき、「来月からの新しい積立設定だけを別な商品に変更する」という方法をとりましょう。これならコストを1円も払わずに済みます。
Q2. 証券会社のポイントサービス目的で、毎月「買ってすぐ売る」のはアリですか?
A. 絶対にやめてください。完全に「損」をします。
クレジットカード積立などでポイントを貯めるために、毎月買い付けた直後に売却して現金化する「即売り」というテクニックを耳にすることがあるかもしれません。しかし、投資信託の価格は毎日細かく上下しているため、売却の手続きをしている数日間のズレで、獲得できるポイント以上の値下がり損を出すリスクが非常に高いです。さらに、これをやるとNISAの貴重な投資枠を無駄に使い潰すことになります。目先の数百ポイントのために、将来の数百万円の複利を捨てるのは非常に効率が悪いです。
【まとめ】お利口な投資家は「動かない」
今回の授業のまとめです。
- オルカンの壁: 世界のプロの8〜9割が負けるほど、オルカンに勝つのは絶望的に難しい
- 売買のペナルティ: 取引のたびに税金(約20%)が引かれ、投資の効率が致命的に落ちる
- ガチホのメリット: 税金を未来へ先送りすることで、その税金ぶんのお金も複利で増やせる
- 結論: 30年で「2,600万円」もの格差が生まれるため、余計な取引は一切しないのが大正解
インデックス投資において、私たちがコントロールできる唯一の要素は「自分の行動」だけです。相場の上げ下げを予想したり、市場の平均点を超えようとしたりすることはプロでもできませんが、「余計な売買をせず、コストを0に抑えること」は、あなたの意志だけで100%達成できます。
スマホの画面を見て売買ボタンを押したくなったときは、この「2,600万円の格差」の表を思い出してください。お茶でも飲んで、ぐっとこらえて、何もしない。それだけで、あなたは周りの大半の投資家よりも一歩リードしているのです。どっしり構えていきましょう!
[参考]
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | eMAXIS(イーマクシス)

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